1.総論

(一社)日本分析機器工業会と(一社)日本科学機器協会との連携で開催するJASISは、今年も9月4日(水)から9月6日(金)の3日間、幕張メッセで開催されます。

「新技術説明会」は、出展企業が、自社の製品及び分析法などの技術動向、実際の分析にあたっての参考情報などを提供する場であり、各分野、各機器の専門家が直接説明を行うこと、各社の情報を効率よく収集できることなどから、毎年多くの方々に参加いただいている企画です。

今年の機種別及び総発表件数について、グラフにまとめましたので、ご参照ください。総テーマ数は、昨年の351件に対して、329件と、22件減少しています。機種別では、「その他」に分類されるものが最も多く107件33%(昨年113件32%:以下括弧内は昨年実績)、次いで「分離分析」68件21%(64件18%)、「光分析」49件15%(55件16%)、「質量分析」34件10%(41件12%)、「X線応用分析」24件7%(29件8%)、「表面分析」21件6%(22件6%)などとなっています。今年は「分離分析」の増加が目立っています。

2.機種別動向

2.1 光分析装置

光分析の発表件数は全47件(昨年55件)で、演題全体の15%でした。装置分類での内訳はラマン14件(同17件)、赤外・近赤外9件(12)、紫外可視7件(5)、原子吸光1件(9)、ICP関連3件(7)でした。光分析でのラマンの首位は定着した感があります。顕微イメージング手法としてラマンとFTIR法との対比・併用に関する演題、基礎・ノウハウなどが中心です。また今年は、ラマンの日本薬局方第二追補に関する演題も見られ、標準化の動きも伺えます。光分析の演題の全体の傾向として、マイクロプラスティックやナノ粒子、微粒子など、「粒子解析」を謳う応用事例(11演題)があり目立っています。従来、光分析の演題は材料分野に偏重する傾向がありましたが、ラマンの応用分野の広がりに見られるように、医薬・原薬、高分子、生体試料や、化粧品、食品などの広い分野にわたって、異物分析や凝集状態のモニタリングなど、一層の普及期に入りつつあることを示しています。

2.2 X線応用装置

X線応用装置関連の発表件数は24件(昨年29件)で、5件減となりました。今年の発表件数を機種別で見ますと、「X線回折装置」は5件(5件)、「蛍光X線分析装置」は11件(12件)、「電子プローブX 線マイクロアナライザ」は3件、「その他」は5件(13件)となっています。ここ数年減少傾向にあった「X線回折装置」と「蛍光X線分析装置」は、「X線回折」が昨年と同様の5件となったのに対し、「蛍光X線分析装置」は今年も1件減となっています。昨年大幅に増加した「その他」は、逆に今年は大幅に減少し5件となっています。「その他」5件の内訳は、X線CTが2件、XPSが2件、EDS/EBSD1件です。X線CTが装置の一分野として定着したことから、「X線回折装置」5件、「蛍光X線分析装置」11件、「電子プローブX 線マイクロアナライザ」3件、X線CT2件、「その他」3件と読みかえることもできます。

発表内容を機種別に見ますと、「X線回折装置」では測定ノウハウや測定例に関する発表が目立ち、現場に即したソリューションの提供という方向付けが読み取れます。同様な傾向は「蛍光X線分析装置」でもみられ、測定例や測定手法、ノウハウに重きを置いた演題が目立ちます。「電子プローブX 線マイクロアナライザ」では高度化した装置や手法の紹介、「X線CT装置」では2件とも装置性能の紹介と測定例の紹介になっています。

2.3 質量分析装置

質量分析装置の発表件数は34件となりました。昨年の45件からは減少したものの、引き続き新技術説明会全体では主要テーマの一つとなっています。質量分析装置はGC、LCをはじめとする分離装置や、EI、CI、ICP、DARTなど多彩なイオン化手法と組み合わされ、多様な応用分野に広がりを見せています。近年ではシングル四重極、トリプル四重極、二重収束、TOFなど質量分離法も幅広く選択できるようになりました。今年はハイスループット、超高分解能、ヘリウムの代替ガス使用、イメージング、スマートコネクテッド等、新技術を紹介する興味深い講演が予定されています。また食品、におい/香り、材料、医薬をはじめとする分野向けアプリケーションが多数紹介されます。質量分析装置で得られる多量のデータをどのように解析、利用していくのかも重要な講演テーマの一つとなっています。

2.4 表面分析装置

今年は21件(昨年22件)と昨年に比べて1件減少しております。最も多いのがSEM(走査型電子顕微鏡)の発表です。昨年より3件増加して13件となっています。次にSPM(走査プローブ顕微鏡)の発表が多く、昨年同様に4件となっています。その他、EDS (エネルギー分散型X線分析装置)1件、XPS(X線光電子分光装置)1件、TEM(透過型電子顕微鏡)1件などとなっております。

2.5 分離分析装置

分離分析に関する発表件数は68件で、昨年の64件、一昨年の54件から増加し、単体では最も講演数の多い分野です。その内訳を装置分類で見ると、LC関連が35件と最多ですが、そのうちLCカラム関連の講演が18件あり、LC分析におけるカラム選定の重要性が見て取れます。AIや自動化をキーワードとする新技術の利用や、検出および高感度技術に焦点を当てたテーマも予定されています。

GC関連の講演はGC用前処理装置と合わせて11件で、におい/香り分析やRoHS規制物質など時流を反映したアプリケーション分野が目を引きます。また、高感度検出、生産性向上、スマートコネクテッドなど、進歩を感じさせるハードウエア新技術に関するテーマも見られます。イオンクロマト5件、超臨界クロマト、透過度測定、薄層クロマト、データ処理システムなどの講演がそれに続きます。

分離分析に関する講演テーマを内容別で見ると、近年の傾向そのままに「コツ」や「ワザ」、「初心者でも」といった「ノウハウ」に関する発表が20件と高い比率を示しています。年々ハードウエアやシステムが進化する一方で、経験やノウハウ獲得にユーザーの高い関心があるようです。

2.6 前処理装置

前処理装置関連の発表件数は、3件となります。前処理における酸分解のノウハウ1件、溶媒抽出装置2件となります。分野としては、その他2件、環境1件となっています。昨年まで、前処理装置関連に分類されていましたマイクロ波を用いた分解抽出装置、遠心分離装置、脱塩装置の発表 6件が、今年は、その他に分類されています。そのため、数値上での前処理装置の発表件数は昨年の10件から3件に減っています。発表内容としては、昨年と同様の傾向で、生体試料や食品からの固相抽出から分析までの手法や、酸分解による金属分析までの手法などのアプリケーションを含めた発表や、装置ハードを中心とした発表と実際の分析に対応した発表が多くなります。幅広い成分を対象とするため、分析目的に応じた前処理方法や分析手法、さらにそれらの組み合わせなど、多種多様の前処理が発表されます。

2.7 システム関連

システム関連では、今年は12件の発表が予定されています。クラウドによるデータ管理やIoTを用いた分析技術情報の統合管理など、これまで分析化学の分野においてはあまり見られなかったシステムの報告が予定されています。また分析機器のデータを計画的にデータベース化し、AIや統計解析へ活用できるシステムや、データから科学物質を自動構造マッピングする手法など新たな技術報告も見られ、動向が注目されます。

2.8 その他の動向(熱分析含む)

その他(熱分析を含む)の発表総数は118件(昨年121件:以下括弧内は昨年実績)と昨年よりわずかに減少となりましたが、全体発表件数の35.8%を占めています。

分野別内訳では、「ナノ・材料」が52件(42件)、「その他」が31件(47件)、「環境」は15件(9件)、「バイオ」は15件(16件)、「IT」は4件(3件)という順になっています。

昨年に続き、その他では「ナノ・材料」が上位を占めており、装置別では粒径・粒度分布測定装置10件、磁気共鳴装置7件、粘度・粘弾性測定装置6件、厚さ計3件が含まれています。また、「バイオ」、「IT」の増減が殆どないのに対して「環境」が昨年より増えています。また熱分析は118件中11件で昨年(8件)よりわずかに増加しました。 

3.分野別動向

3.1 バイオ関連

バイオ関連の発表件数は46件となり、昨年より5件増加しました。発表内容は分離分析にかかわる発表が21件、ラマン等の光分析を用いた発表が6件、質量分析や表面分析に関するものがこれに続きます。その他、器具やサンプルの取り扱いから、用いる超純水、前処理、専用検査装置やNMRでの分析、そしてデータマネージメントまで、バイオ関連分析に関する幅広い講演が予定されています。バイオ医薬品、食品、パーソナルケアなど、アプリケーションにフォーカスした発表も注目されます。JASIS展において、バイオ関連技術がますます重要になっていることを実感させます。

3.2 環境関連

環境と登録された発表は42件(昨年40件、以下の括弧内は昨年実績)であり、昨年より2件増えて5%増となっています。内訳は、分離分析:12件(6)、質量分析:6件(7)、原子吸光分析:0件(6)、X線応用分析:12件(3)、ICP:0件(2)、光分析:6件(4)、その他:15件(12)であり、分離分析とX線応用分析が大きく増え、原子吸光分析とICPは0件に減少しました。

分析対象物質に環境物質を含めている発表は、大気・水質・土壌関連で140件(115)、廃棄物関連で106件(95件)であり、昨年に比べて22%増および12%増です。環境物質測定への関心度が依然として高い状態にあることがうかがえます。

3.3 ナノ・材料

今年のナノ・材料関係の発表件数は132件(昨年137件)と昨年並みとなり、分野別では最多の件数です。装置別でみると、光分析装置28件(27件)、表面分析装置19件(19件)、X線応用分析装置13件(19件)、質量分析装置10件(16件)、分離分析装置10件(11件)、熱分析6件(4件)の順でした。その他の発表が46 件(昨年39件)あり、粒径・粒度分布測定装置によるナノ粒子測定など10件(10件)、粘度・粘弾性測定装置の応用事例が6件(8件)、核磁気共鳴装置NMRが6件あります。ここでは、ナノ材料一般論として、物性評価だけでなく、材料の微量成分分析も含めた応用事例を紹介しています。

3.4 その他(IT含む)

IT関連を含む「その他」の分野に関する昨年の発表総数は134件であったのに対し、今回は109件となり,昨年より減少しています。装置別では分離分析が25件(昨年30件:以下括弧内は昨年実績),X線応用分析9件(8件),質量分析16件(21件)、光分析9件(13件)、熱分析5件(4件)、前処理関連2件(3件)でした。X線応用分析、熱分析はほぼ同等であるのに対して分離分析、質量分析、光分析、前処理関連の件数が減少しています。

「新技術説明会」は、出展企業が自社の製品及び分析法などの技術動向、実際の分析にあたって参考情報、アプリケーションなどを提供する場であり、各分野、各機器の専門家が直接説明を行うこと、各社の情報を効率よく収集できることなどから、毎年多くの方々に参加いただいている企画となっています。2003年~本年2019年の機種別及び総発表件数は、以下のように推移しています。

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